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朝食に食パンを焼き、その上にスクランブルエッグとハムを乗せる。
しかし衣知は案外強情なようで、3回ほど催促したが同じ数だけ食事を拒んだ。
起き上がれない衣知のために床に皿を置いているのだが、優しさを受け入れる余裕もないようだ。
「冷めるぞ衣知、今食べないとまた食べられなくなる」
口元に近づけてやると、衣知は子供のように顔を逸らした。
やはり彼は汚されてしまったのだ。繋ぎとめる事の出来なかった、この数年間で。
そしてそれを更生できるのは、俺しかいない。
乾いた音が響いた。視界で、衣知がさらに身体を曲げる。頬が、赤くなっていた。
「食べろよ衣知、ほら」
パンを千切って唇に押し付けるが、彼は拒み続ける。
世界に汚されなければ、恋人の食事を拒絶するような人間にはなっていなかったはずだ。
悪いのは衣知ではない。この世なのだ。
朝陽は千切ったパンの欠片を口に含むと、衣知の口を強引に開け、舌で押し込んだ。
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