【第22話】

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[家行ってもいい?]  あれから三日が経過した日の事だ。奏からそんなメールが来た。  この類のメールが来るのは、彼是四度目になる。流石に、もう無視は出来ない。思考を回す。きっと彼の事だから、辛そうにしていたら自ら場を離れるだろう。一人結論を出し、返信をした。  数分後、呼び鈴が鳴った。澄晴はふらりと立ち上がって玄関に赴いた。そして、ドアを開く。 「……澄晴! 久しぶり!」  視線が絡み合う前に、奏が抱きついてくる。実は持っていたらしきビニール袋が音を立てた。 「……久しぶり……」  本当に久しぶりだ。入院している間は、澄晴が医師に頼み他者との面会を控えていたので、殆どと言ってもいいほど会っていなかったのだ。  久しく触れる人肌が温かい。  奏はすっかり痩せて薄くなった澄晴の肩や背中を全身で包み込むように抱き続けていた。 「本当に会えてよかったよ澄晴……! 寂しかった……」 「……うん、寂しくさせてごめんね……」  縋るように顔を寄せる奏の頭を、ゆっくりと撫でる。  過去にもこんな遣り取りをしたな、と思い出す。  たしかあれは、奏がまだ八歳だった時の事だ。  当時はまだ事情を知らなかったのだが、奏が両親により外出を制限された期間があった。放課後という時間を作らせないために彼の親が校門まで迎えに来て引き摺り歩くのを、澄晴は窓の中からよく目撃していたのを覚えている。  それに加え、奏は教室に入らない日が続き、直接的に顔を合わせることもなかった。  三週間ほど経って漸く、奏は親の束縛から解放され、待ち侘びていたように澄晴の元にやって来た。  その時、まさに今この状況と同じ台詞を奏が零し、子供ながら随分と濃厚な抱擁を交わしたのだ。  澄晴は一歳と言う差を大きく感じており、まだ小さかった奏に『寂しかったね』と返した。
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