【第21話】

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 生理的な欲求を満たすための食事に手を付け、上の空で食む。心に大きな穴が空いている。暗闇のどん底に置き去りにされたような気分だ。  あれから一夜を明かしたが、奏や誠からの返信は未だに来ていない。しかし今はそれすらも気にならなかった。気に留める余裕すら無いのだ。  それでいて、焦っているわけでもなかった。実の弟は現在、警察署で検死を受けていて、自身は結果を待っている。  その紛れもない真実が、どこか遠い場所で起こった、言うなれば他人事のように感じた。  出来すぎた悲劇を傍から見ているようだった。  事件だなんて、馬鹿馬鹿しい。そもそも安易に不法侵入出来るほど、セキュリティは甘くない。  入る事が出来るのは、合鍵を持っている誠や、誠によって入室を許された奏。あるいは、――――考えたくはないが――――非道な行為に躊躇がない悠輝。その三人くらいだ。  しかしいくら非常識とは言え、これほどあからさまに殺人を犯すほど悠輝も愚鈍ではないだろう。  きっと不運な事故だ。飲食や薬物の誤飲、または心臓発作や母親の死因でもある脳梗塞。起こりうるならそのあたりで間違いない。  推測し、澄晴は無理矢理に巡流の死因を決め付けた。これが現実逃避である事を、もちろん理解している。だが可能性はゼロじゃない。巡流は常に病気がちで、栄養失調に陥っていた。突然死が有り得ないという思案は医師にも自分にも無かったのだ。  その時だった。巡流の死から二日が経った今、漸く誠から返信がきた。  誠には申し訳ないことをした。落ち着いたら、感謝を述べ、謝罪しよう。  身の縮むような思いで携帯のディスプレイに視線を落とす。  そして、唖然とした。 [澄晴、本当にごめんな]  送られてきたのは、たったそれだけだった。  巡流の件で気が張っているのか、忽ち冷や汗が額に滲み出し、呼吸が速くなる。嫌な予感がした。  何故謝るのかと、震える指先で打ち込み送信するが、通知音はそこで途絶えた。
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