【第21話】

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 重度の栄養失調で入院を余儀なくされた澄晴は、あれから一度も家に帰らずベッドの上で一日を過ごしていた。  ――――帰れないのだ。巡流の寝ていたベッドを見てしまえば、今でも不安定な精神がさらに病んでしまうことだろう。  そこで、澄晴はつい先程起こった出来事を思い出した。入院生活を開始して二日になるが、その間にも容赦なく発作が起き、医師に心療内科を勧められたのだ。  受診したところで治るという保障は無い。長年巡流の通院に同行していた所為なのか、そんな不信感が生まれていた。  障害者のレッテルを貼られることによるデメリットを考えれば、受診せずに耐え続けるほうがいくらか増しだとも思えてしまう。  今こうして入院している時点で、健常者ではなくなってしまったのだが。  沈思黙考していると、ノックの音が鳴った。  悠輝以外断る理由はないので、声を聞いて彼ではない事を確認すると、どうぞ、と入室を促した。  部屋を訪ねてきたのは、地元の警察官だった。そこで、検死結果を待っていた事を思い出す。  落ち着いて聞いてください、と口火を切ったあと、巡流に対しての弔いの言葉を述べた。  あらためて、巡流が本当にこの世からいなくなってしまったことを実感した。  今から語られるのは、恐らく彼の死の真相だろう。きっと耳を塞ぎたくなるような、そんな話なのだ。  しかしこの場から逃げてしまおうとは思わなかった。まだ、誠の死について何も知らない。巡流と誠の死が無関係だとは、如何しても思えない。  因果関係があるとしても、如何いったものなのか皆目予想がつかない。  その遣り切れぬ思いを解消したかった。ただ、それだけだった。  若い警察官が口を開く。  澄晴は隠すようにシーツの中に終い込んだ両手を握り合わせ、ぐっと力を入れる。肩を震わせながらも、謎を解明するために耳を傾けた。  ――――警察官は巡流の死因は薬物と、絞首による窒息死だと断言した。これは、薬物を吐き出さないように気道を塞いだのだと推理されたそうだ。  死亡推定時刻は澄晴が帰宅する二時間前である十六時前後で、当時はあまりに焦っていた所為で死後硬直し始めていることに気付いていなかったらしい。  彼らは書類を瞥見しながら、流暢に言葉を繋ぐ。  犯人は巡流を殺したあと、実の妻の口座に大金を振り込んだ。  その大金の出所は未だに分かっておらず、現在は捜査中。  巡流の死の二日後に、犯人が自宅にて自殺。  そしてその犯人と言うのが、――――小鳥遊誠だった、と静かに告げた。  
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