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澄晴はラップフィルムを掛けた皿を電子レンジに放り込み、スイッチを押した。
昨日奏が作っておいてくれた、炒飯である。
奏は会社の勤務を終えてから、ほぼ毎日自宅を訪ねるようになった。
食料を調達して持ってきたり、食事を用意したりする様は、一月ほど前の自分に似ている。不本意だが、次は自身が巡流の立場になってしまったのだ。
もちろん頼んでいるわけではない。
今更になって、巡流はどんな気持ちだったんだろうと考える。
巡流も澄晴と同じように母親の血を引いていたため、遠慮がちなところがあった。
もしかしたら、彼もまた、罪悪感に満たされていたのかもしれない。
その罪悪感が謎めいた死に繋がっていたとしたら。
誠が巡流に頼まれ、良心からその手助けをし、自殺関与罪に怯えて自ら命を絶ったという推測が、突如浮上する。
考えるだけで吐き気がした。
どんな理由であれ、誠が巡流を殺すはずなど無いのだ。絶対に何かの間違いなのだと、必死に自分に言い聞かせる。
手掛かりが欲しい。真実が知りたい。
その一心で、澄晴は立ち上がり、壁を伝ってとある場所を目指した。
辿り着いたのは、近いようで遠かった、巡流の部屋だ。約一ヶ月間逃避していた場所に足を踏み入れるのは、やはり怖かった。
ドアの前でしゃがみ込み、項垂れる。
無力感や忽ち湧き上がってくる孤独感、さらには救えなかったという逃げ場の無い後悔、そして幸福が失われていくという恐怖で、滂沱たる涙が容赦なく流れ出した。
そのとき、冷たいフローリングの上で居竦まる澄晴の肩を、温もりが包み込んだ。
背後にある気配は、紛れもなく奏のものだ。
ベールのように柔らかい抱擁に、また涙が溢れてくる。
「……そんなに焦らなくても良いんだよ」
奏は澄晴の前方に回り、俯いて嗚咽する澄晴をもう一度抱き寄せた。
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