【第1話】

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 澄晴と奏の自宅は、同じ住宅地内にある。棟も同じで、澄晴が一階、奏が二階と距離も近かった。 「じゃあね奏、今日は来てくれてありがとね」 「当たり前だよ。澄晴も疲れただろうし、よく休んでね」  二人はヒラヒラと手を振り、奏が階段を上っていくのを見送ると、澄晴も静かに玄関を開けた。 「おー澄晴お疲れー!」  玄関のドアを開けるなり、居間から溌剌とした声が聞こえてきた。  まるで我が家とでも言うように、暗めの茶髪に、赤いアンダーリムの眼鏡をかけた男が立っている。 「誠! ただいま、長い時間ありがとね」 「気にすんな気にすんな」  彼、小鳥遊(たかなし)(まこと)はクシャッと顔を綻ばせ、澄晴をソファーに促す。  だが澄晴は腰を下ろさずに、立ったまま問い掛けた。 「巡流どう?」 「んー相変わらずって感じだなー」 「そっか……、…誠疲れたでしょ、何か飲む?」 「いや大丈夫、俺はそろそろ帰るよ」  誠は持参していた荷物を持ち上げ、颯爽と玄関へ歩いていく。その行動が自分への気遣いだと分かっていた澄晴は、改めて礼を言うためそのあとに続いた。 「今日は本当にありがとう。明日は仕事休ませてもらったから大丈夫そうだよ」 「んーじゃあ明後日また来るわー」  弾けるような笑顔を崩さないまま、誠は玄関の外へ出た。澄晴も外玄関に出ようとしたが、何時も『ここまでで良い』と言われているのを思い出し、そっと足取りを止めた。
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