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澄晴と奏の自宅は、同じ住宅地内にある。棟も同じで、澄晴が一階、奏が二階と距離も近かった。
「じゃあね奏、今日は来てくれてありがとね」
「当たり前だよ。澄晴も疲れただろうし、よく休んでね」
二人はヒラヒラと手を振り、奏が階段を上っていくのを見送ると、澄晴も静かに玄関を開けた。
「おー澄晴お疲れー!」
玄関のドアを開けるなり、居間から溌剌とした声が聞こえてきた。
まるで我が家とでも言うように、暗めの茶髪に、赤いアンダーリムの眼鏡をかけた男が立っている。
「誠! ただいま、長い時間ありがとね」
「気にすんな気にすんな」
彼、小鳥遊誠はクシャッと顔を綻ばせ、澄晴をソファーに促す。
だが澄晴は腰を下ろさずに、立ったまま問い掛けた。
「巡流どう?」
「んー相変わらずって感じだなー」
「そっか……、…誠疲れたでしょ、何か飲む?」
「いや大丈夫、俺はそろそろ帰るよ」
誠は持参していた荷物を持ち上げ、颯爽と玄関へ歩いていく。その行動が自分への気遣いだと分かっていた澄晴は、改めて礼を言うためそのあとに続いた。
「今日は本当にありがとう。明日は仕事休ませてもらったから大丈夫そうだよ」
「んーじゃあ明後日また来るわー」
弾けるような笑顔を崩さないまま、誠は玄関の外へ出た。澄晴も外玄関に出ようとしたが、何時も『ここまでで良い』と言われているのを思い出し、そっと足取りを止めた。
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