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浅い眠りの中、飛び起きた昇良がバタバタと寝室を出て行ったことによって、はたと目が覚め、完全に眠気を手放す。
真夜中の静寂に、物音と苦しそうにえずく声が聞こえた。ナイトテーブルを見遣ると、昨夜薬を飲んだ形跡は無かった。
睡眠薬に頼らず眠りに就いた昇良に何が起きたのかは、大方察しがつく。
情が移ることが不意に怖くなり、布団に潜り込んで耳を塞ぐ。
数分後に覚束無い足で戻ってきた昇良は、随分と荒い息遣いをしていた。
背を向けて、寝ているフリをした。
何時の間にか眠っていたようが、カーテン越しの明るい空を見ても、未だ脳内はおぼろげである。
恐る恐る昇良の様子を確かめると、彼は安らかな寝息を立てていた。
例の如く、ナイトテーブルには穴の開いたシートが散乱している。睡眠薬を詰め込んだ瓶の蓋も開けっ放しだ。
朔斗は溜め息を吐くと、シートを屑篭に放り込み、瓶の蓋を閉めた。
復讐心の妨げとなっていたものを理解した今、彼の寝顔を見て胸を撫で下ろす事など出来なかった。
愛されているからとか、可哀想だからとか、そんな事で躊躇っている場合ではなかったのだ。
こんな生活を続けていたらこの先もっと堕落して、ふしだらな人間に成り下がり、元の自分には戻れなくなってしまう。
起きる気配のない昇良に跨り、首筋に手を掛けてみる。初めて自ら触れる彼の素肌は、滑らかで温かい。
ハッとなり、手を離す。
――――今は、まだ駄目だ。
そうだ、復讐の日は、3月20日。――――彼の生まれた日にしよう。
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