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数十分が経過して漸く脱衣所を出た朔斗は、先程受けた指示通りに居間へと歩いた。
昇良の休日に限り、食事は居間で摂る事になっている。
だがその時間は、寝室にてひとりで食べるよりも、遥かに憂鬱なものだった。
居間には馥郁たる料理の香りが漂っていて、餓えた腹を擽った。
滲む唾液を飲み込むが、期待をしてはいけない。
どうせ、今日もまた。
「……やっぱり」
口をついて出た声に昇良の背中が反応し、咄嗟に声を押し殺す。
朔斗は言われるがままに着席し、用意された皿を虚ろに見つめた。
白い皿には、何の変哲も無いロールパンがふたつ並べてある。
軟禁されてからと言うもの、毎日毎食、こればかりだ。
目の前では時間をかけて拵えられたであろう朝食を、昇良が悠々閑々と食し、満足げな顔で嚥下した。
飯にありつけるだけマシだと言いたいところだが、ここまで差をつけられると、食事ひとつでも汚辱されている気分になる。それでいて、空腹と言う生理現象には逆らえないのだから、人間というのは都合の悪い生き物だ。
ロールパンを口に含み、力なく咀嚼する。いまいち、味がしない。
このままでは、壊れてしまう。
――――まだ自らの意思が残っているうちに、ここを出なければいけない。
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