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寒さと空腹で、力が入らない。
気絶していたのか、眠っていたのか定かではないが、目を覚ますと辺りは真っ暗になっていた。
昇良はまだ帰ってきていない。
これが逃げようとした罰なのだろうか。
座っているのも辛くなり、横たわろうとしたちょうどその時、ドアが開いた。
突如降り注ぐ照明に、目を細める。
「……ほんとに待ってたんだ」
情緒の無い眼差しが、じっとこちらを見ていた。
凍えた体に白湯が染み渡る。淡白な味も、今は何となく在り難い。
一息吐き、朔斗は隣を見遣った。
「あの、飲み物ありがとうございました……」
「どういたしまして。……さて、お仕置きは何にするかな」
何の躊躇もない発言に、愕然とする。
まだ、終わっていなかった。
極寒で放置されただけでも随分と堪えたのに、さらに酷いことをするつもりなのだろうか。
昇良はわざとらしく朔斗の様子を窺いながら、思索に耽っている。
屈辱的ではあるが、今はただ、彼がこの惨めな反応だけを楽しんでいることを切実に願った。
「あ、これ友人から聞いた話なんだけどさ、……やってる時にスタンガン当てると、その瞬間に締まってすごい気持ちいいんだって」
「ス、スタンガン……」
「そ、腹とか脚とかさ」
昇良が軽く口角を吊り上げる。
無論肯定は出来ないが、この状況下では否定すら命取りになる。
こんな生活を強いられていても、生きようとする自分が憎い。
だが、ただでさえ惨憺な彼との性行為にスタンガンを持ち出されては、本当に死んでしまうかもしれない。
「……ごめんなさい、ゆ、許してください……もう、逃げ、逃げません……だから、許してください」
自ずと溢れ出る謝罪に、また心が砕かれてゆく。
「そんな保障どこにもないだろ」
「ほんと、です……絶対、逃げま、せん……!」
「絶対信じない」
「本当、だから……ッ」
「黙れ」
行き成り押し倒され、息を詰める。
体重の掛かった肩が軋んでいる。
彼の所業は、嘗て『これ以上怖い人間はいない』と思っていた両親の存在が霞むほどに、非人道的だ。
「明後日、楽しみだなあ」
畏怖する朔斗を余所に、昇良は悪戯っぽく呟いて、眠りに就いた。
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