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「昇良ン家で良いんだよな?」
「あぁ、頼む」
前方からの問いに答えた男の低い声が、やけにはっきりと聞こえる。足元の感覚から、その男が横並びに座っていることを予想する。
「……そいつ、どうやって家まで連れてくの? 途中で誰かに見られない?」
「この時間帯全然人いないから大丈夫」
「そっか。薬はどうする? 打っとく?」
「キメセクでもさせるつもりかよ。いい、睡眠薬持ってるからそれ飲ませとく」
断片的に飛び込んでくるおぞましい単語に慄いていると、突如口唇を覆っていた布が剥ぎ取られ、上体を起こされた朔斗は着座の形を取ることとなった。
「ほら、口開けろ」
嫌だ、と言い掛けた口を固く閉ざす。
少しでも開けてしまえば、その瞬間に薬を飲まされてしまう。
睡眠薬だという保障は何処にも無い。違法な劇薬や、毒物かもしれない。
必死に思量する中に、男の舌打ちが混ざった。
瞬く隙に、無骨な親指が歯列を抉じ開ける。
錠剤に続き水が流し込まれ、半強制的に服薬する。
――――ここで、僕は死ぬのか。
身体の力が抜けてゆく。薬品の所為なのか、諦めの所為なのか、どちらともつかないが、分かっている事があるとするなら、今日が人生最後の日だという事くらいだろう。
12月2日。まさか、生まれた日に死ぬ事になるなんて。
数時間前、これから始まる新たな一年に野望を漲らせていた自分が馬鹿らしい。
思えば生まれてこの方、誕生日はろくなことがなかった。
徐々に薄れてゆく意識の中、朔斗は否応無しに毎年訪れる、その日を思い出していた。
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