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椿忌の話
「……晃平」
「(´・д・`)ヤダ」
刀掛けに置かれた日本刀を訝しげに眺めつつ、祀樹は一人の男の事を思い出していた。
世都椿忌(ヨツ・ツバキ)。
本名・伏見椿綺(フシミ・ツバキ)。
伏見環恋の兄(自称)であり、祀樹と同じく改変能力を持つ者。
この日本刀はその椿忌から預かったモノである。
祀樹は椿忌の愛刀が苦手である。主に見た目が。
「だいたい、あの人なんなんだ……人間なのか?」
「人間だよー。『焦契約(ショウケイヤク)』っていって、主に契約持ち掛けた魔人のルール違反が酷い『既に死んでる』って結果が出てるのに『生きてる』って矛盾と、『契約は解けてる』って結果が出てるのに『刻印が残ってる』って矛盾がなんやかんやで呪いみたくなってるの。椿忌さん、あの見た目で凱夏にーちゃんより10個歳上」
うそだろ……と呟く祀樹の横を、黒髪に銀灰色の瞳を持つ長身の男が通り過ぎていく。……子供に見せるには宜しくない姿で。
そこへ慌てた様子のラザリィスが服を持ってやってくる。
「……どーしたラザリィ」
「ツバキ、服を着てくれ」
「いいか、ラザリィ。人はな、改変能力一つで『非日常を日常』と認識するんだよ」
「椿忌サン、そういう問題じゃないんだって」
晃平の教育に悪い、とラザリィスに服を渡され、受け取って着始めつつ、椿忌は淡々と語る。
何言ってんだアンタ、と祀樹は心の中で呟いた。
そもそも、祀樹が『造られた』もう一つの理由は『兄・椿忌の改変能力を強化する為のデータ収集』である。
尤も、椿忌は『いや、俺の改変能力はこのくらいでいいや』と改変能力の強化には消極的なのだが。
「いいか、晃平、俺の改変能力は弱くていいんだよ」
「へー」
「見鬼に関しては玖露坊には負けてない」
「存じ上げておりマース(・∇・)」
服を着終えた椿忌は晃平の近くに座ると、刀掛けに置かれた日本刀を手に取った。
道具持って来るよ、と祀樹が席を立とうとすると、椿忌が呟く。
「道具なら、『此処にある』」
呟いた瞬間、椿忌の傍にはいつの間にか、手入れ道具が置かれていた。
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