139人が本棚に入れています
本棚に追加
ロイドはそれ以来、宮殿にいる間は常に、母親の行動に注目するよう心掛けた。
勿論、直接問いただしたところで得られるものなど何もなく、むしろ自分が警戒の対象となってしまうため、地道に注視していくしかないのである。
だからといってまだ19歳のロイドは、一日中自由な行動をとれるわけではない。
次の国王はドリスになることがほとんど決まっているのだが、だからといってロイドは何もしなくて良い、ということは決してない。王族としての宮中行事や外交など、将来的にはアリアス王国の代表者のひとりとして、立派に働かなくてはならない。そしてそのために、朝から家庭教師につきっきりで指導されながら、学問に励む、というのがロイドの日課だった。
ロイドはこの日、経済学について教授をうけたいたが、正直言って勉強どころではなかった。先日、婚約破棄における冤罪の首謀者の心当たりがフランソワの意見と一致したことによって、いてもたってもいられなかったからだ。
しかしながら、上の空で勉強していると、家庭教師からは厳しい叱責が飛ぶ。よくもまあ王族の人間にこんなに厳しい態度を取れるものだ、というくらいにはその叱責は激しいものだったが、それはロイドの両親、つまりアリアス国王夫妻からの強い要望によるものだった。
やはり一国を代表する者のひとりになる以上は、しっかりと勉強しなければならないからであろう。この日も、集中力の乏しいロイドに対して、家庭教師の厳しい言葉が飛ぶ。
「ロイド様!しっかりと集中しなさい!
そんなんじゃ王族の一員としていけません!
ムーア家のお嬢様なんか、もっと真面目に取り組んでますぞ!」
「はいはい」
初老にしては毛量の多い白髪頭をかきあげながら、家庭教師はロイドにゲキを飛ばす。
ゲキを飛ばすのは一向に構わないが、ロイドにとって気になることがあった。
「先生。ムーア家のソフィさんにも教えているのですか?」
「今はそんなことは良いからちゃんとやりなさい!」
「先生。そうなんですね」
今までの上の空、といったようなやる気のない態度とはうってかわって、今度は鋭い眼光を家庭教師に向けた。その眼差しに怯んだこの中年男性は、仕方なく一応ロイドの質問に答える。
「はい。教えさせていただいております。
よっぽど優秀ですぞ」
「そうなんですね」
この時はこれ以上は何も聞かなかったが、これが何かの手かがりになれば良いと思った。
何故なら、ムーア家というのは、アリアス夫人の実家のことだからだ。
何か自分の一族を、今回の一件に巻きこんでいる可能性もあると思った。
最初のコメントを投稿しよう!