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アリアス夫人は宮殿において、当たり前だが絶大な権力を誇っている。
勿論、1番の権力者はアリアス国王であるわけだが、国王には国王の仕事がある。いつも宮殿にいるわけではないのだ。実際、この日もアリアス国王は他国との会談を行うため、宮殿を留守にしていた。
すると、国王のいない宮殿においては必然的に夫人が1番偉い存在となるのだ。
「あら貴女。ちゃんと廊下の手すりまで掃除なさってますこと?埃がついてますわよ」
アリアス夫人は手すりをこすり、指でかすめとった僅かな埃を、宮殿内の通りがかりの清掃員に、これ見よがしに突きつける。
「申し訳ございません!ちゃんと掃除致します!」
清掃服を見に纏った中年女性は深々と頭を下げる。
「しっかりやらないと、貴女自身が埃になるわよ」
「は、はぁ…」
いまいちピンときていない様子の清掃員を尻目に、アリアス夫人は執事を連れ添わせ、その場を後にし、清掃員の姿が見えなくなると驚きの一言を口にする。
「あの汚らしい埃、クビにしてちょうだい」
「承知致しました」
執事は深々とお辞儀をした。
このようにアリアス夫人は宮殿において、言わばやりたい放題、権勢をふるっていたのである。
一方その頃、ロイドは家庭教師に叱責を受けながら、学問に励んでいた。
「う〜ん。どうにもこうにも、哲学というのは難しいなぁ」
「ロイド様!私語は慎みなさい!ソフィお嬢様は哲学なんか得意中の得意科目ですぞ」
「……」
ロイドは家庭教師のこの言葉にいつも苛つく。
何故いつもいつもムーア家の話を出して自分と比較するのか、理解出来なかった。
もっとも、フランソワの一件があってからは、こちらの方から話を振らずともムーア家の動向を伺う良いチャンスではあった。
「ソフィさんはいつもいつこの宮殿にいるの?」
「いいからきちんと勉強しなさい!」
「先生!おかしいじゃないか!自分の方から話をしといて!ちゃんと答えなさい!」
「ひっ……!は、はい!」
家庭教師は、ロイドに凄まれるとこのようにいつめ怯む。それもそのはず、ロイドの機嫌を損ね、クビになったりでもしたら給料の良い仕事を失うことになるからだ。
「ソフィお嬢様は、3日後に宮殿にいらっしゃいます。勉強をした後、アリアス夫人とご一緒に昼食をとられるようです」
「へえ。そうか。ありがとう」
「は、はぁ……」
家庭教師は何でこんなことが気になるのか、といった様子だったが、ロイドにとっては勉強なんかよりもよっぽど良い情報だった。
ロイドは、どうにかして昼食の時間の母親とソフィとの会話を盗み聞き出来ないか、勉強しながら考えていた。
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