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ロイドと会うことが増えたフランソワは、日に日にどことなく雰囲気が明るくなっていた。
母子家庭で育ち、母親の苦労を知っていたため、ナタリーの前では出来るだけ自分の感情を押し殺して生きてきたフランソワだったが、ナタリーでも気づくほど、はつらつとしている。
「フランソワ、あなた、最近楽しそうね。なんだか良いことでもあったのかしら」
「ええ、そう?そんなことないわ。私はいつも通りよ」
白々しくおどけてみせる。
しかしながら、時には冷淡とも捉えられかねない、かつてのフランソワのテンションの抑揚の無さから比べると、今のフランソワはナタリーの言う通り、どこか心踊るような様子であることは自明なほど明らかであった。
その原因は何だろうか。
やはり、婚約破棄の件で賠償金が貰える可能性が少しでも出てきたことに対する喜びであろうか。それとも、ロイドのおかげで頻繁に高級料理を食べられることに対する満足感であろうか。
いずれにせよ、ナタリーには知る由もなかった。
この日もフランソワはロイドと一緒に例の高級レストランを訪れていた。
ロイドの独自の調査には何の進展もなかったが、ムーア家について調べるつもりだということを話すと、フランソワは感心した様子で、自分が宮殿にいた頃の話を始めた。
「そういえば、ムーア家、特にソフィお嬢様は私に対して異常なほどの敵対心を持っているようでしたわ」
「ほう、例えばどんな?」
「ええっと、例えば、何かっていうと家柄の話を持ち出しては嫌味を言ったりだとか…
私個人に対しても文句をよく言っていましたわ」
「なるほど、嫌がらせを受ける心当たりはありますか?」
「いえ…。出会った当初から私に対してはそのような感じでしたので…」
ロイドは、そうですか…と言ったきり、またしばらく考え込んでいるようだった。
フランソワが憎い。家柄。ムーア家。
フランソワが憎い。家柄。ムーア家。
フランソワが憎い。家柄。ムーア家。
ロイドの頭の中を反芻した。何度も何度も反芻したところで、ひとつ考えが湧き上がった。
「フランソワさん!」
「は、はい!」
「ありがとうございます。何か手がかりを掴めたかも知れません!今日から早速、調査してみます!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
そうしてこの日は珍しく、明るいムードの中、2人は別れた。別れ際に、ロイドがこれまた珍しいことを言い出した。
「ところでフランソワさん。この店も飽きたでしょうから、今度はフランソワさんが僕を招待してくださいね!」
そう言い残してロイドは執事を連れ添わせ、車に乗り込んでいった。
フランソワは思わず笑ってしまった。
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