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「ごめんね…せっかく王子にスカウトされたのに、力になれなくて…」
「ううん、お母様は何も悪くないわ。むしろありがとうね。こんな私を、今まで女でひとつで育ててくれて」
「う、うぅ……」
フランソワが感謝の意を述べると、ナタリーは再び泣き出した。
フランソワには父親がいない。父親は、フランソワが生まれてすぐに、他に女を作って家を出ていったのだが、そんな事実をフランソワに伝えるわけにもいかず、母親のナタリーは父親は死んだと、嘘をついている。もっとも、賢いフランソワがその嘘を見破っていないとはとても言い切れない。
「お母さん、あなたが泥棒なんてしてないって、信じてるからね」
「ありがとう、お母様!」
そう言ってフランソワは笑って見せた。
フランソワ自身も精神的に辛くない訳はないが、やはり、母親の前では明るく振る舞うことにしていた。
家に着くと、フランソワは、先ほどまで自分が住んでいた宮殿と実家との違いに少し落胆したが、贅沢は言っていられない。なんて言っても、母子家庭であるため、自分も暮らしのため、熱心に働かなければならない事は、分かっていたからだ。
その頃、宮殿では、アリアス家の親戚一同を招き、食事会が開かれていた。
食卓に並ぶのは、世界有数のシェフによる一流料理、アリアス家に相応しい高級感溢れる立派な料理だった。
「ドリス兄さん。婚約破棄して、本当に良いのかい?」
寡黙な食事会において、口火を切ったのはドリスの弟、ロイドだった。ドリスはう、うんと濁った返事をしているが、すぐにアリアス夫人が口を挟む。
「あ〜らやだわ、ロイド。あの女の話をするのはもうおやめなさい。せっかの料理が台無しになりますわ」
アリアス夫人の憎まれ口に、親戚一同からは笑いが起こる。それに応じてドリス王子も笑顔を見せるが、弟のロイドはただひとり、納得がいかなかった。
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