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驚いて、すぐさまテーブルの裏から顔を出すと、声の主はアリアス夫人の執事だった。
執事はアセンブルホールの入り口のドア付近に立って、驚いた様子でロイドの方を見ている。
終わったと思った。ついに、自分のしていたことが夫人に知られ、自分はアリアス王家から追放されるのだ。
ロイドはもう言い訳しても無駄だと思い、覚悟を決めた。逃げも隠れもしない。呆然と立ちすくんだまま、絶望にうちひしがれていた。
執事はそんなうなだれているロイドの方にすたすたと近づき、何をしていたのかということをたずねた。
「ロイド様、ひょっとすると、貴方はご夫人とソフィお嬢様との会話を…?」
「ええ。そうですよ」
ロイドは、自分のしていたことを潔く認めた。
すると案の定、執事はそれに対して非難の声を浴びせる。この事が明るみになった以上、いずれもう王族の人間ではなくなるであろうという接し方だ。王族の人間に対する態度ではない。
「あなた、自分のしたことがわかっているのですか!スパイ行為ですぞ!」
「………」
執事の言葉を、誠心誠意受け止める。
しかしそれを聞きながらロイドは思った。
ロイドが盗聴していたということを夫人に言いつけたとして、執事にとってのメリットは何かあるのだろうか。
何のためにこの中年男性はこんなにもいきり立っているのだろうか。そんな時、あるひとつの考えがロイドの頭に浮かんだ。
「すいません、執事」
「なんです!許してくれったってそうはいきませんぞ!」
「まあ落ち着いて、よく考えてみてくださいよ」
「?」
ロイドは、とりあえずまくしたてる執事の勢いを止めることに成功した。
執事はというと、いきなり変なことを言い出すロイドに懐疑的な目を向けている。
「僕が盗聴していたことを夫人に報告し、僕の処分が決まったとします。するとその会話の内容は国王もお聴きになるでしょうね」
「?!」
ロイドは一か八かの勝負に出た。
もちろん、会話の内容などまだ聴いていないのでわからないが、もし少しでもやましい会話があった場合、それを国王に聞かれたらまずいはずだ。少なくとも、まっさきにこの執事のクビは飛ぶに違いない。
そしてどうやらロイドの予想は的中していたようだ。
「そ、それは……」
「ね、困るでしょう?」
「………はい!申し訳ありません!」
執事は態度を一転させ、深々と頭を下げた。
ロイドに許しを乞うたのだ。しかしもちろん、ロイドの目的は執事を貶めるというところにはない。
ロイドの今すべきことは、自分の要求を通すことだった。
「まあ、このソフトの中身を後で確認すれば分かることなのですが、あえて今、あなたに問います。今回の増税について、アリアス夫人の私情が絡んでいますね」
「……はい」
ロイドは心の中でガッツポーズした。
この勝負、もはや勝ったも同然だからだ。
まさか、こんなところにチャンスが転がっていたとは。ついに、ついに、あの極悪な母親の鼻を明かし、フランソワのことを救うことが出来るかもしれない。そう思うと、期待で心が弾んだ。そんな興奮を抑え、執事に対してはあくまでも厳しく追及を行う。
こうして、ロイドによる夫人の執事に対する尋問が始まった。
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