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フランソワを後ろから追いかけていたのは、なんと、ついこの間婚約を破棄したばかりのドリス王子の弟、ロイドだった。
「フランソワさーん!」
「ロイドさん……?!」
あまりの驚きに、一瞬にして涙を止めることが出来た。しかし、ロイドはフランソワの泣き腫らした顔を見て、少し決まり悪そうな表情になった。
「フランソワさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
お互いに頭を下げて挨拶する。
「この度は兄が、その……」
とても言いにくそうだったので、フランソワはロイドの意思を汲んでやる事にした。
「大丈夫。私なら心配ありませんわ。それよりロイドさん、わざわざありがとう」
「フランソワさん……」
ロイドは気づいた。フランソワが作った満面の笑みの奥底は、全く笑っていないということに。心が痛くなると同時に、自分の兄がしたことであるため、少なからず責任を感じた。
「あの、フランソワさん。婚約破棄について。
僕はあなたが、心優しいあなたが、指輪を盗んだとはとても思えないのです。真実をお聞かせくださいませんか!」
かなりの思い切った発言に対して、フランソワは微笑みながら優しく拒絶の意を表する。
「気遣いはありがたいけれど、お兄様を疑うのはよくないですわ。でも本当にありがとうね」
嘘だ。こんなに眩しく、こんなに美しく、こんなに透き通った笑顔を持つこの人が、あんな罪を犯すはずがない。
ロイドはこの後も粘り強く頼み込んだが、やんわりと断られてしまった。
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