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翌日、フランソワが朝から石炭を売り歩いていると、再びロイドが現れた。
「おはようございます。重くて大変そうですね、お手伝いしましょうか?」
「あら、ロイド様おはようございます。
いいえ、結構ですわ。王子様にこんな事させるわけにはいきませんもの」
「ははは!何をおっしゃいますか」
そう言うとロイドは半ば強引にフランソワから石炭を半分ほどひったくり、通行人に売り歩きはじめた。
なんとも強引な男である。しかしながら、王子に石炭のセールスをされた通行人は断るわけにもいかず、100発100中で石炭は飛ぶように売れ、昼までには完売した。
「ほらね、フランソワさん。手分けしてやった方が、早いですよ」
そう言ってロイドは笑うが、やはり王子にそんな仕事をさせてしまったことに罪悪感を覚えたため、フランソワは差し支えない範囲で、ロイドに婚約破棄の経緯について話すことに決めた。
ロイドにその意を告げると、ロイドは嬉しそうにフランソワを近くの高級なレストランに招待した。
いつもの食生活とはかけ離れた、いってしまえば婚約破棄を宣告される以前以来の、豪華な食事。フランソワは少し、母親に申し訳ないような気がした。
料理が運ばれてくる前に、せっかちなロイドは核心にせまる。
「フランソワさん。僕はドリスの弟として、真実を知りたいんです。正直にお答えください。
あなた、指輪を盗んでいませんね?」
「…はい……」
フランソワが答えにくそうに言ったのもお構い無しに、ロイドはあからさまにほっと胸をなでおろす。
「よかった〜!僕、信じていたんです。
フランソワさんは絶対にそんな事するような人じゃないって」
「は、はぁ……」
この時フランソワは、正直なところ、早く仕事に戻りたいという気持ちでいっぱいだった。
真相をロイドに分かってもらったところで、
ロイドから信じてもらえてたというのはたしかに嬉しいが、生活が豊かになる事なんて何ひとつとしてない。過去の過ぎ去った事についてあれこれ話している暇があったら、仕事など有意義な事に時間を費やした方がマシだと思った。
それほど、フランソワの生活は貧しいからだ。
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