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その翌日も、そのまた翌日も、ロイドはフランソワの仕事を手伝いに来た。
仕事が早く片付くことは確かに助かるといえば助かるが、王族の人間にこんなことをさせているいう罪悪感と、いくら仕事を手伝ってもらったところで話せないものは話せないのだから、その点に関しては迷惑以外の何でもなかった。
勿論、そんなことをロイド本人に言うわけもないので、とりあえず感謝の意を述べると、空気の読めないロイドは嬉しそうに笑う。
その笑顔が、フランソワの心境を複雑なものにさせた。
「フランソワさん、今日もいつものところでお話しませんか」
「………」
あれからほとんど毎日、ロイドと一緒に昼食をとりながら例の件について話をしてきたが、実をいうと、フランソワは今日こそ誘いを断るつもりだった。前にもいったことだが、ロイドはドリスの弟として、真相を知りたいのかもしれないが、フランソワにとって、例の、婚約破棄の事実を語ることはリスクを伴うだけで何のメリットもないし、そもそもフランソワ自身もこの件についての全貌を知っているわけではない。
ドリスのことはもう忘れたいし、あの件についても忘れたい。それなのに、ロイドの澄んだ瞳と筋の通った鼻、どこかドリスの面影がある顔を見ると、いつもドリスのことを思い出してしまう。嫌だった。
だから、今日はついに、それらの理由を話し、
ロイドの誘いを丁重に断った。
しかしロイドからの返答は、意外なものだった。
「フランソワさん。あなたは勘違いしています。確かに僕は、兄弟として今回の件についての真実を知りたいと言いました。
しかし、もうひとつ理由があります。
僕は、兄がしたことはフランソワさんに対してあまりに申し訳ないことだと思っています。
だから、弟として兄の責任を明らかにし、フランソワさんに賠償を行いたいと思うのです」
賠償。その言葉に、フランソワは引っかかった。引っかかったというと語弊があるかもしれないが、この時フランソワの頭の中に浮かんだのは、莫大な慰謝料だった。
ロイドのおかげで真相が公になり、賠償金が頂けるなら、自分の生活が少しは楽になるかもしれない。母親であるナタリーに楽をさせてやれるかもしれない。
リスクは伴うが、乗らない手はないと思った。
「ロイド様。お心遣い、ありがとうございます。そんなことまで言って頂けたら、是非、私のお話し出来ることはなんでも、お話しいたします」
「本当ですか!ありがとう!」
フランソワは自分でも少々現金であることは自覚していたが、生活のためにはそんなことは言っていられなかった。
そして、ロイドもまた、フランソワの弱みにつけこんだのである。もっとも、それはお節介からくる善意であることは確かである。
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