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「フランソワさん、あなたは真実を知っているのですか」
「いいえ。全てを知っているわけではないんです…」
これに関しては本当だった。誤魔化しているわけではない。話したい気持ちはやまやまだが、フランソワ自身も全貌を知っているわけではないので、迂闊なことを言うわけにはいかない。
フランソワの答えに一瞬、少しロイドはがっかりした様子を見せたが、すぐに気を取り直して違う観点からアプローチをかける。
「そうですか、分かりました。では、濡れ衣を着せられたことに関して、何か心当たりはありますか?」
「………」
「どうやら、あるようですね」
図星だった。何と答えたら良いか分からなくてフランソワは黙り込んでしまったのだが、流石は正直者。表情に出てしまっていたらしい。
ここは認めるしかない。
「はい……一応あるのですが…」
ロイドの表情に、期待の色が灯る。
「おっ。では、あくまでもフランソワさんの見たてで良いのでお聞かせ願えませんか」
「は、はい…そうですね、ええっと…」
言いにくいに決まっている。何故ならば、今回の冤罪に噛んでいるフランソワがと踏んでいる人物は、アリアス夫人だからだ。
つまりロイドの母親にあたる。ここでアリアス夫人の名前を出せばロイドは傷つくだろうし、ないより失礼にあたる。そしてさらには、フランソワが冤罪事件を自分の母親のせいにしていることにロイドが腹を立てた場合、面倒なことになりかねない。
「それはちょっと……言いにくいな…」
「母、ですか」
衝撃の一言だった。何とロイドは自分の口から、冤罪を吹っかけた犯人として、アリアス夫人、つまりは自分の母親の名前を挙げたのだ。
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