第32話 セカンドライン

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「玲旺様、もうじき日も暮れます。夜は少し冷えますし、長旅のお疲れもあるでしょうから風邪を引かれては大変です。早めに帰りましょう」 「うん。ごめん。明日からちゃんとするから、今日だけワガママ許してくれる?」  車を降りながら玲旺が申し訳なさそうに告げると、藤井は肩を落としてため息を吐いた。 「……あなたにそんな風に言われたら、従うしかないじゃありませんか」  仕方ないですねと笑われたので、玲旺も面映ゆそうに「ありがとう」と返す。  藤井の車を見送った後、玲旺はぐるりと公園内を見回した。園内の木々は紅葉が始まっていて、重たそうな黒い雲ともみじのコントラストに見惚れてしまう。木に囲まれているせいか公園内の空気はひんやりしていて、少し肌寒い。   水面が落ち葉で覆われた池の横を通り過ぎた時は、気味が悪いほど静かで、思わず早足になってしまった。一人になりたくて車を降りたのに、早速寂しくなって「参ったな」と小さく溢す。 「久我さんは今頃、仕事中かな」  ロンドンにいた時はなるべく気にしないようにしていたが、流石にこの街のどこかに久我がいるのかと思うと落ち着かなかった。  もし会社でバッタリ会っても、緊張せずに仕事仲間の顔で挨拶できるだろうか。寂しいとか、会いたかったとか、未練を出さないように気を付けないと。  そんなことを考えながら、いつの間にか東京タワーの麓に辿り着く。初めてこんなに近くまで来たなと、見上げ過ぎて首が痛くなった。すでに日は暮れ始め、オレンジ色のライトが東京タワーを浮かび上がらせている。明日の休みはスカイツリーにでも行ってみようか。東京観光も悪くない。  ぼんやり灯りを眺めていたら、頬にポツリと冷たい雫が落ちてきた。
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