第3話 人気者のお手本みたい

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「ソレ、何……?」 「ああ、これか。お前が営業部に移ってくる前に、どんな奴か知っておきたくて。俺の同期に情報提供して貰ったんだよ」 「そういうのって本人のいないところで見るもんなんじゃないの? それで、ここぞって時に、その情報を武器にして使うんじゃ……」  玲旺が言い終わらないうちに、久我は広い肩を揺らして笑いだした。 「そりゃ、同業のライバル会社にはそうするけどさ、何で味方なのに武器を用意しなきゃいけないんだよ」 「味方……」 「桐ケ谷、面白いな。俺、ずっと弟って存在に憧れてたんだよね。桐ケ谷みたいな弟がいたら、毎日楽しいんだろうなぁ」  目を細める久我が陽だまりみたいで、玲旺は無意識に小さな笑みを返していた。温かいと感じた瞬間、直ぐに背中がヒヤッと冷たくなり、玲旺は笑顔を消して久我から目を逸らす。  駄目だ。  折角築き上げた高い壁を壊すな。御曹司の武装を保て。  これ以上馴れ馴れしい態度をとられないよう、強い言葉で言い返せ。  何をこんなに喜んでいるんだ。  味方と言われたくらいで。弟と言われたくらいで。 「俺も……。俺も、兄貴がいたらいいのにって、ずっと思ってた」  突き放すつもりで開いた口から、思いがけず飛び出した言葉に自分自身で驚いて赤面した。何を言ってるんだろうと、両手で口を覆う。久我は嬉しそうに椅子から立ち上がると、狼狽える玲旺の両肩を掴んだ。
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