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暫くすると目的地周辺に着いたようで、久我はビルの谷間にある狭いコインパーキングにスルスルと器用に車を停めた。
「お前、本当に仕方ないなぁ」
エンジンを切った後、久我は苦笑いしながら運転席で体をひねり、玲旺の座るシートに手を伸ばす。片手はヘッドレストを掴み、もう片方の手を玲旺の足の間に突っ込んだ。久我が覆いかぶさるような形になったので、玲旺はギョッとして身を縮める。久我が足の間にあるレバーを引くと、ガクンと揺れてシートが後ろにスライドした。
「どう? これでもう辛くないだろ」
そう尋ねる久我の声と瞳があまりにも優しくて、玲旺は返事も忘れて思わず見入ってしまった。久我も不思議そうに、玲旺の茶色い瞳を見つめ返す。
「どうした、顔が赤いぞ。車酔い?」
「ちっげーよ! 早くどけよ。降りらんねーだろ」
「またそんな言葉遣いをする」
やれやれと首を振りながら、久我が車から降りた。玲旺は跳ねる心臓を押さえ、「何でこんなことくらいで」と、大きく息を吸う。
久我の前では、どういう訳だかいつもの自分でいることが難しかった。
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