第4話 渋谷のヴァンパイア

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 真っ白い髪は前下がりのボブカットで、右側の髪だけ耳に掛けている。微笑みながら首を傾げると、大振りのピアスが揺れた。真っ赤な口紅と、赤いカラーコンタクト。肌は白く、黒いドレスシャツに黒のベストを合わせていた。足元はゴツいエナメルブーツで、ガーゼ素材のスカートと意外と良く合っている。  ゴシック風で個性的な装いは、まるで吸血鬼だと玲旺は思った。  黙っていれば長身で華奢な女性のようだったが、低い声と喉仏で男性なのだと解る。 「こんにちは、氷雨(ひさめ)さん。今日はお時間を頂きありがとうございます」 「なぁに? 久我クンの秘密兵器? この子を差し出されたら、ちょっと心が揺れちゃうわ」 「やめてくださいよ、部下を手土産にしたりしませんから。今日から営業部に配属になった桐ケ谷です」  言いながら久我が玲旺に視線を送る。自己紹介を促されているのだと理解して、玲旺は一歩前に進み出た。 「桐ケ谷玲旺です。名刺がまだ出来上がっていないので、後日また改め……」 「いいわよ、名刺なんて。それよりプライベートの連絡先教えてくれたら嬉しいな」  そう言って氷雨が玲旺の手を取る。強く握りしめられたので思わず舌打ちしそうになったが、何とかこらえた。 「ねぇねぇ、お家はドコ? 今度あそぼ?」 「氷雨さん、新人をからかわないでくださいね。それより、服のサンプルをご覧に入れたくてお持ちしました。デザインはもちろん、生地も縫製もこだわっていて、このお店のコンセプトにも合っていると思いますよ。奥で詳しくご説明致します」  グイグイと迫る氷雨に、久我が危ぶみながら「スタッフルームへ移動しましょう」と声を掛ける。
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