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久我の言う「玲旺に相応しい」というものが何なのか良くわからないが、久我はもう充分過ぎるほどの結果を出したはずだ。
それなのにまだ会いに来ないという事は、きっともう、今更自分とどうこうなるつもりはないのだろう。
「藤井、悪い。買い物して帰りたいから、次の出口で高速降りてもらっていい?」
「買い物ですか? 次の出口は芝公園ですよ。それなら芝公園の次で降りて六本木へ向かいましょうか? このまま降りずに渋谷まで行くのも良いかと思いますが」
藤井は不可解そうにルームミラー越しに玲旺を見た。玲旺は肩をすくめ、「うーん」と唸りながら困ったような顔をする。
「白状すると、ちょっと一人で歩きたいだけだから芝公園が丁度いいや。東京タワー見たら、日本に帰ってきたなーって実感しそうだし」
ははっと笑って玲旺は窓の外に視線を逸らす。藤井はウインカーを出し、言われた通り芝公園の出口で降りた。日比谷通りを真っ直ぐ進み公園に車を横付けすると、運転席から心配そうに玲旺を振りかえる。
「今日は雨の予報も出ていますし、すぐにお戻りください。私は駐車場で待機しておりますから」
藤井の言葉通り、灰色の低い雲が空を流れていて、今にも降り出しそうだった。曇天を見上げなが、玲旺はゆっくり首を振る。
「藤井はこのまま仕事に戻っていいよ。就業中に送らせちゃってごめんね。ありがとう」
「そんな事はお気になさらずに。玲旺様のお世話は私の中で最も優先すべき任務なのです。あなたに関われる事が、私の生き甲斐なのですから」
「何だか熱烈だね」
「それは、もう」
大真面目に藤井が頷くので、玲旺は思わず吹き出してしまった。
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