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第33話 濡れネズミと黒い猫
「うわ、雨だ」
はじめポツポツと遠慮がちに降っていた雨粒は、徐々に大粒となり勢いを増していく。玲旺は慌ててチケット売り場へ続くテントに駆け込んだ。
あっという間に土砂降りになり、まるで雨のカーテンに閉じ込められたような気分になる。
「凄いな日本は。これじゃまるで、熱帯雨林のスコールじゃん」
雨が降るとは聞いていても、まさかここまでと思わなかった玲旺は顔を引きつらせた。恐らく藤井でさえ、こんなに派手な雨が降るとは予想していなかっただろう。流石にこれを想定していたら、公園散策など許すばずがない。
前髪から水滴がポタポタと流れ、顎を伝ってシャツに落ちた。
雨に当たった時間は短かったが、スーツの色が変わるくらいには全身濡れている。これでもし風邪でも引いたら、「だから言ったではないですか」と藤井に叱られそうだ。
しばらく頭が上がらないなと参ったように腕を組んだ時、ふと視線を感じて周囲に目を向けた。
影と同化していて気付かなかったが、同じテント内の少し離れた位置から、濡れた黒猫が丸まってこちらの様子をジッと伺っている。
「何だ、雨宿り仲間がいたのか」と体の向きを変えると、猫は警戒したように腰を浮かした。玲旺が一歩でも動いたら、猫は雨の中へ飛び出してしまいそうだ。それは流石に忍びないので、玲旺は静かに前に向き直る。目の端で猫が警戒を解いて再び丸まったのが見えた。
猫が落ち着いてくれたことに安堵しながら、滝のような雨を再び眺める。
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