第1話 棘の鎧を身に纏え

2/3
2808人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
「お迎えに上りました、玲旺(れお)様。午前中ずっと休憩時間に充てられていたようですので、そろそろ社へ戻りませんと」  二十代後半くらいの男が、玲旺と呼ばれた青年の横で(うやうや)しく片膝を付いた。  綺麗に磨かれた爪は清潔感があったが、同時に神経質そうにも見えた。ベンチに座っていた玲旺は自分より幾分か年上の男を一瞥すると、不機嫌そうに舌打ちをする。 「何だ、藤井かよ。オマエ、よく俺がここにいるってわかったな」 「ええ、かなり探しましたよ。ホテルのラウンジ、先週グランドオープンしたフレンチレストラン、それから流行りのカフェも」 「ほっとけっつーの。俺がいなくたって総務部は上手く回ってんだから、親父には適当に言っときゃいいだろ。『そろそろ一般人の感覚に慣れろ』なんて言って、他の新入社員と同じ扱いしやがって。今まで俺のことなんて構いもしなかったくせに」  言い終わらないうちに、玲旺は立ち上がるとさっさと歩き出した。ベンチにはブランドショップの大きな紙袋が二つ残されたままだったが、自分で持つことなく当然のように置き去りにする。藤井は紙袋を掴み、急いで玲旺の後を追った。 「玲旺様ご自身でお買い物に行かれたのですか? 欲しい物がおありなら、外商を呼びますのに」
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!