第1話 棘の鎧を身に纏え

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「買い物くらい好きにさせろよ。店の棚に並んでるのを見比べながら選びてーんだよ。『今人気の商品です』って、家に持って来られたんじゃ興醒めなワケ。わかる?」 「それは大変失礼いたしました」  高圧的な物言いにも表情一つ変えず、藤井はいつものように従順に頷いた。玲旺はわざとダラダラ歩きながら、腕時計に視線を落とす。まだ会社に戻るには早いと考えながら、洒落たセルフタイプのカフェの前で足を止めた。安いチェーン店と違ってその店先からは、ローストされた珈琲豆の良い香りが漂っている。 「珈琲飲みたい。買ってきて」  玲旺は藤井の返事を聞く事すらせず、そのまま店内に入り、丁度よく空いた窓際の席を陣取った。ムスッとした表情で外を眺めるその姿は、高貴な猫がツンと澄ましているようで近寄りがたい。  藤井は大荷物を抱えたままカウンターで注文を済ますと、受け取った商品を玲旺のテーブルまで甲斐甲斐(かいがい)しく運んだ。 「それでは、外でお待ちしております」  律義に頭を下げて立ち去る藤井の後ろ姿を眺めながら、玲旺は少しだけ口の端を上げる。   柔らかそうな栗色の髪をかき上げてから、珈琲カップに口をつけた。 『玲旺は甘いものが好き』と言う情報は、藤井の頭の中にしっかり叩き込まれているのだろう。珈琲としか言わなかったが、藤井が買ってきたものは生キャラメル入りのミルクラテだった。 「あいつはホント、昔から忠実だな」  幼少の頃から、人を試すようにワガママを言う癖があった。  玲旺も充分自覚していたが、改めるつもりは毛頭ない。    なぜならそれは、身を守る術でもあるのだから。
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