第9話 見目麗しい後継者

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「案内状をよく貰う桐ケ谷さんのアドバイスは的確で心強いですね。私もこのツタ模様が良いと思います。でも、少し地味じゃないかと不安で。色味が大人し過ぎると言うか……」  ふわっと柔らかい雰囲気の鈴木は、まさにターゲット層ド真ん中の女性だった。その鈴木が地味だと感じた点は看過できない。 「でしたら今の茶系をやめて、用紙を白に、ツタの色をマゼンダピンクに変更するのはどうでしょう。それなら久我さんの言う華やかさも取り入れられると思います」 「ああ、それは良いな」  玲旺の提案を即座に採用した久我が、新しくサンプルを作るように指示を出した。吉田は素早くメモを取り、鈴木は「可愛くなりそう」と、嬉しそうに手を叩く。自分の意見がすんなり通ったことに玲旺は驚いた。 「え、いいんですか? まさか俺が社長の息子だからって気を使ってないですか?」  疑うような、それでいて怯えているような表情で玲旺は三人の顔を順番に見た。久我が首を振りながら大袈裟にため息をつく。 「あのなぁ。展示会は真剣勝負の場だぞ。お前にゴマすりしてる場合じゃないんだよ。良いと思ったから採用したんだ。もっと自信持て」  自信を持てと言われて嬉しいと思いつつ、「真剣勝負の場」がピンとこない玲旺は首を傾げた。吉田と鈴木は久我のストレートな物言いに、玲旺が怒り出さないかとハラハラしている。
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