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そんな様子を久我は一瞥すると、三人に言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。
「次の展示会は複数のブランドが参加する合同展示会だ。アパレルは斜陽産業なんて揶揄される今、どこも取引先の新規開拓に必死なんだよ。一見華やかな場だが、熾烈な戦場だ」
なるほどと思いながら、ごくりと唾を飲み込んだ。吉田と鈴木も同じように真剣な表情で久我の話を聞いている。
「桐ケ谷は自分が社長の息子だってこと、一旦忘れろ。吉田も鈴木も、桐ケ谷を特別扱いしないように。コイツはただの新人だ。わかったな?」
「あの、質問があるのですが」
ソロリと小さく挙手したのは吉田だった。色白で眼鏡をかけていて、気の弱そうな男性だ。吉田の前には今日までに調べ上げた資料の束が積み上がっている。
「桐ケ谷くんを特別扱いしないのは承知しました。でも、社長令息の肩書が発揮できる場で利用させて貰うのはアリでしょうか?」
楽しそうに久我が「例えば?」と先を促す。
「展示会のブースで、前面に出て欲しいと思いまして……。フォーチュンの新しいコンセプトを伝えるのに、次の代を担う桐ケ谷くんはピッタリかと。とても注目を集めると思います」
イケメンですし。と付け加えてから、玲旺の顔をチラリと見る。
「なるほど。隣のブースはJolieだしな。きっとまた、うちとよく似たコンセプトをぶつけてくるだろう。面倒臭い」
言葉通り、心底面倒くさそうに久我が眉間に皺を寄せる。鈴木も呆れながら力なく笑った。
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