第10話 熾烈な戦場

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第10話 熾烈な戦場

 展示会が開催されるのは、海辺の大きなイベント会場だった。  広い展示ホールにはアパレルだけでなく、バッグや靴、生地や素材など世界中から集まったあらゆる業者のブースがぎっしりと並ぶ。様々なブランドが、一小間三メートル四方のスペースにそれぞれ思い思いの工夫を凝らして出店していた。お祭りムードの中にもピリッとした緊張感があり、久我が熾烈な戦場と表現していたことを玲旺は思い出す。  まだ五月だが、ディスプレイされる商品はどこのブースも秋冬向けの物だった。トルソーの衣装を整えながら「緊張してきた」と、吉田が情けないほど眉を下げる。 「大丈夫ですよ。吉田さん、俺よりずっと知識あるし、商品の説明も上手ですし」  新しいブランドの顔としてブースの前面に立つ玲旺は、誰よりも緊張しそうな立場だったが案外ケロッとしていた。 「そういう所、流石だなぁ。生まれながらの心臓の強さと言うか、人の上に立つ才能を遺伝子レベルで受け継いでると言うか。羨ましい」  吉田が胃の辺りをさする。玲旺は「そうかな?」と首を傾げながら、トルソーが着ているジャケットの袖を意味もなく摘まんだ。 「でも頼もしいよね。うちの会社は今後も安泰だなって思えるもん。今回のブースレイアウトも、桐ケ谷くんの案、大正解だよ。さっき会場を偵察してきたけど、ここのブースは一際目立ってるよ」  販売部から来た助っ人との打ち合わせが一段落した鈴木が微笑んだ。玲旺は照れながら、自分たちのスペースを改めて見回す。
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