第10話 熾烈な戦場

5/6
2812人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
「着替えて参りますので、少々お待ちいただけますか」 「ええ。ありがとう、お願いしますね」  玲旺の返答に鈴木は目を剥いたが、玲旺は女性から服を受け取ると誰もいない商談スペースへと移動した。ここならパーテーションで区切られているので、問題なく着替えられそうだ。  トビー素材の白いワイシャツに袖を通し、ミモレ丈のフレアスカートを穿く。ウエストのサイズは全く問題ないが、足がスースーして違和感しかない。丈が短めのジャケットを羽織った瞬間、クスクス笑っている久我の気配を感じて、玲旺は思い切り顔をしかめながら振り返った。 「嘘つき」 「ん? フォローがいる場面だった?」 「あの女性、有名人か何かですか」 「さあ、誰だろうね。有名人じゃなかったら引き受けなかった?」 「受けますよ。顧客候補には変わりないんだし」  玲旺の答えに久我が満足げにほほ笑む。その様子を見て、ああ自分は間違っていなかったんだなと確信した。同時に「試しやがって」と言う気持ちも沸いて、玲旺は頬を膨らませる。  玲旺の心情を察したのか、久我は苦笑いしながら箱からパンプスを取り出し、玲旺の足元に置いた。 「お待たせしました」  風を切る様に堂々とブースを横切る玲旺に、通路を行き交う人々から小さなどよめきが起きた。歩く度にタックの入ったフレアスカートがふんわりと優雅に揺れる。女性は「ほぉ」と感嘆の声をあげて目を細めた。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!