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「綺麗なシルエットね。ジャケットも素敵だわ。申し訳ないけど、その場でクルっと回って頂けるかしら」
「かしこまりました」
言われた通りに軽やかに回って見せると、うっとり見惚れるようなため息が周囲に広がった。
「素敵ね」と言う声に混じって、「そのまま三回まわって『ワン』って言ってみたら?」と言う男の声が聞こえて、玲旺はそちらに目をやる。
高そうな海外ブランドのスーツを身にまとった男が、ニヤニヤ笑いながら見下したような視線を玲旺に送っていた。
「フォーチュンの跡取りはプライドが無いのかよ。契約取る為に必死で尻尾振っちゃってさぁ。見てらんないね」
口の端だけ上げた下品な笑い方をして、男が大袈裟に肩をすくめて見せた。玲旺は怒りよりも先に「はて、俺は何で見知らぬ馬鹿に喧嘩を売られているのだろうか」とキョトンとしながら首を傾げる。
吉田がスッと玲旺の背後に回り、小声で「ジョリーの社長令息、紅林です」と告げ、なるほどと納得した。
「あら。あなたフォーチュンの跡取りだったの」
玲旺に試着を勧めた女性は、大きく瞬きを二回した。
「ええ、以後お見知りおきを」
満面の笑みで玲旺が答える。せっかく嫌味を言ったのに大して効いていないのが気に入らなかったのか、紅林が思い切り舌打ちをした。
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