第11話 格の違いを見せつけろ

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第11話 格の違いを見せつけろ

「そんな女装させられて、よくヘラヘラ笑ってられんな。みっともない、社員が泣くぞ」  挑発だとしたら、なんてお粗末なんだろうと玲旺は深く息を吐いた。それでも以前の自分だったら、簡単にこの挑発に乗って「うるせえ黙れ」位のことは言い返していたかもしれない。 ーーだけど今は、正しい抗議の仕方を知っている。 「みっともないなんて思いませんよ。お客様が実際にスカートの動きを知りたいと考えるのは理解できますし、この服を着こなせるのは、この場に自分しかいなかった。それだけの事です」  この上ない営業スマイルを浮かべ、玲旺は言ってのけた。紅林が赤い顔で拳を握り締め、震えている。玲旺は畳みかけるように続けた。 「社員を泣かせるつもりは毛頭ありません。それよりも、この日の為に準備をしてきた社員達のチャンスを奪う方が、よっぽど恥ずかしいと思います」  スカート姿じゃ迫力不足かなぁと思いながらも、玲旺は少しでも堂々として見えるよう、精一杯胸を張る。 「お、お前はイチイチ客の言うこと、なんでも聞くのかよ。お客様は神様ですってか。チャンスだって? 実績もなさそうな、こんな客でも?」  周囲にいるのはただの野次馬じゃない。未来のお得意様かもしれない。そんな状況なのに、なぜ彼はこうも口汚く罵れるのだろうと眉をしかめた。そしてハッとした。状況は違えど、氷雨に暴言を吐いた自分は、周囲の目には今の紅林のように映っていたかもしれない。
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