第11話 格の違いを見せつけろ

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「桐ケ谷くんっ、これ!」 「ありがとう、鈴木さん」  脱いだスーツを慌てて持ってきてくれた鈴木からジャケットを受け取り、改めて名刺を差し出すと、緑川は柔らかい眼差しで玲旺を見た。 「あなたは、ここにいる社員の名前をちゃんと憶えているのね」 「えっ? 当然覚えておりますよ。今日まで一緒に準備して参りましたから」 「そう、準備から一緒に。いえね、あちらの御曹司は、スタッフを『おい』とか『そこのヤツ』なんて呼んでいたから。あなたが名前で呼んでいるのを見て、ちょっと安心したの」  そう言いながら、緑川は視線を紅林に移した。  彼は今頃になって周囲から冷ややかな目で見られていることに気付いたようで、真っ青な顔で立ち尽くしている。 「このデザインのまま制服と言う訳にもいきませんよね。詳しいお話は商談スペースで久我にお願いいたします。こちらへどうぞ」 「ありがとう。今日一番の収穫は、あなたに会えたことかもしれないわね。フォーチュンは今後、ますます目が離せなくなりそうだわ」  恐縮です、と照れくさそうに玲旺は目を伏せる。玲旺から引き継ぐように緑川を迎えた久我が、すれ違う瞬間「よくやった」と小声で囁いた。玲旺が顔を上げると、後は任せろと言うように、久我は力強く頷いて見せる。
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