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そうこうしているうちに、日本橋にあるフォーチュンの本社ビルにたどり着く。
建物に一歩足を踏み入れた瞬間、先ほどまで服従していた藤井が、あっさりと玲旺に背を向けた。「社内では特別扱いしないようにと社長から仰せつかっておりますので」と告げ、玲旺を残して丁度よく来たエレベーターに乗り込んでしまう。
急に突き放すような藤井の態度に腹が立って、玲旺は閉まりかけた扉に強引に身を滑り込ませた。総務部の階数ボタンが押されていなかったので、玲旺は「押せ」と顎で示す。藤井は特別扱いしないと言った手前、素直に押すかどうか少し悩むように眉根を寄せたが、仕方ないと諦めたのか五階のボタンに指を伸ばした。
一緒に乗り合わせていた他の社員は、社長付きの第一秘書である藤井を顎で使う玲旺を見てピタリと雑談を止める。「コレが今度入社してきた御曹司か」と、粗相してはいけないという張り詰めた空気がみるみる充満していった。
不自然なほど沈黙の続くエレベーターで階床表示灯を見上げながら、玲旺は誰にも気づかれないように小さく息を吐く。
俺と一緒の空間は、息が詰まるかい?
俺だって、こんなに窮屈で居心地の悪い毎日は勘弁してほしいよ。
と、俯きたいのを我慢して奥歯を噛みしめた。
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