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「さて、私はもう行くわね。久我さん、また後日改めて」
「ええ、お待ちしております」
いつの間にか玲旺の隣にいた久我が、緑川に向かって丁寧にお辞儀をする。所作が綺麗だなと見惚れていたら、緑川から右手を差し出された。
「桐ケ谷さん、今日はお会いできて嬉しかったわ。これからもよろしくね」
「こちらこそ。本日はありがとうございました」
玲旺が差し出された手を取って握手を交わすと、氷雨が唇を噛みしめて身をよじらせる。
「ずるいずるい。僕も桐ケ谷クンと手をつなぎたいのに」
割り込むように玲旺の手を握り、呆気に取られているうちに氷雨の唇が玲旺の頬に触れた。
「またね」
玲旺から離れる瞬間、氷雨の瞳が潤んだように揺れる。握っていた手をするりとほどくと、氷雨はバイバイと笑顔で手を振った。
「あなた、随分と梅田君に気に入られているのね。ああ見えて彼、結構孤独なのよ。仲良くしてあげてね」
氷雨に聞こえない程度の小声で言うと、緑川が教師の顔に戻ってわずかにほほ笑む。そのまま氷雨の後を追って緑川もブースを後にした。
満足感と同時にどっと疲れが押し寄せる。それでも、空港で偽物を鑑定させられた時に比べたら、何倍も心地良いものだった。
「桐ケ谷、こっち」
ホッとしたのも束の間、パーテーションの陰から手招きする久我の表情が怒っているように見えて、玲旺は何かマズイ事をしでかしただろうかと焦りながら駆け寄った。
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