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第12話 弟の仮面を被ろう
「氷雨さんの口紅が付いてる。これじゃ人前に出られないだろう」
明らかに不機嫌そうに、ハンカチでゴシゴシと玲旺の頬をこする。力任せに拭いたところで中々落ちず、久我は更に苛立ちを募らせた。
「お前、この間のこともあるんだから、隙を見せるなよ。簡単に近づかれるな。もっと警戒しろ」
何でそんなに腹を立てているのか不思議だったが、今は逆らわない方が良さそうだと判断して玲旺は大人しく従った。強く擦られてだんだんと頬がヒリヒリしてくる。
「あっ、久我さん、乾いたハンカチで拭いても駄目ですよ。私、メイク落としシート持ってるんで使ってください」
力技で何とかしようとする久我に驚きながら、鈴木がポーチからメイク落としを取り出した。オイルを含んだシートで何度か拭き取ると、口紅は綺麗に落ちていく。
「少し赤くなっちゃいましたね。もしオイルがしみるなら、水で洗い流してくださいね」
そう言い残して持ち場へ戻る鈴木の背中を見送った後、久我が申し訳なさそうに眉を寄せた。
「ごめん。……痛む?」
「大丈夫ですよ。このくらい」
実際痛みはなく、少し違和感があるくらいだった。それでも久我は酷く気にしながら玲旺の頬に手を添えて、いたわるように親指で軽くさする。その仕草はまるで、キスする寸前の恋人同士のようだ。
「ホントに、もう大丈夫ですから!」
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