第2話 fortune

3/5

2814人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
 五階フロアに降り立った玲旺は、オフィスへと続く廊下を気だるそうに進んだ。途中、喫煙ルームから出てきた社員が「社長の息子は」と口にしたので、思わず柱の陰に身を隠す。 「いつも早い時間から休憩に行ったきりで戻らないよね。女子達が目の保養が出来ないって残念がってたよ。いない方が気楽でいいけどさ」 「ボンボンに雑用なんてさせられないし、面倒なことも頼めないからさ、午前中から休憩に行ってもらってるんだよ。そんで、『ゆっくりしてきて大丈夫です』って言ってある。今日の午後からボンボンは営業部に引き取って貰えるし、これでやっと総務部に平和が戻るな」  オフィスへ戻りながら雑談している声の主は、玲旺の教育係だった。総務部に配属されてからずっと、彼から与えられる仕事と言えば楽なものばかりで、結果的に玲旺は殆どの時間を手持ち無沙汰で過ごさねばならなかった。  彼はそれで玲旺の機嫌を取っているつもりのようだったが、そんな事情を知らない他の社員からは「いい気なもんだな」と眉を顰められ、今日は遂に、噂を耳にした藤井に迎えに来られてしまった。とは言え、玲旺も進んで仕事を探そうともしなかったので、非がある事は自覚していたのだが。  こんな会話を聞かされるくらいなら、もう少し遅く戻ればよかったと思いつつ、玲旺は柱から出るタイミングを伺った。
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2814人が本棚に入れています
本棚に追加