第2話 fortune

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「入社してから二週間で異動って、珍しいな。そんなことあるの?」 「建前は経験を積むために各部署をローテーションってことになってるけど、要はたらい回しだよ。ウチに来たのだって、扱い難くて手に負えないって経理部が音を上げたからだぞ。俺も御曹司を持て余して困ってるって久我(くが)に相談したら、営業は人が足りなくて猫の手も借りたいってさ。だから早めに引き取って貰うことにしたんだ」 「久我って、営業部のエースの? 猫の手ねぇ。引っ掻き回されるだけなんじゃないの」   からかうような笑い声が、煙草の匂いと共に遠ざかる。どうでも良いと思いながら、玲旺は二人の背中を見送った。  例えどれだけ謙虚に振舞ったって、今みたいな揶揄や中傷が消えないことを知っている。努力して結果を出しても認められず、「七光りだ」と切り捨てられることを知っている。  だったらいっそ、絵に描いたような御曹司を演じてやろうと決めたのだ。  生意気で高飛車で傲慢な、解りやすい悪役に。  気安く話しかけられないくらい、高い壁を築こう。  遠慮なく陰口を叩けばいい。  嫉妬と羨望を上手く隠し、優しいフリをして近づかれ、背中を刺されるより余程マシだ。初めから嫌われていれば、これ以上傷つかなくて済む。  オフィスに戻ると、先ほどの教育係が笑顔で近づいてきた。陰口を聞かれていたなど露ほども思っていない彼は、調子よく玲旺に声を掛ける。
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