それは通り雨のような

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*** 「弥生先輩のソロパートのところ、凄く良くなっていてびっくりしました! めちゃくちゃいい音でした!」  いつものスタバで愛佳が興奮気味に言った。私は嬉しさと恥ずかしさに顔が熱を持つのを感じた。 「そ、そう? 嬉しいな。新田君がね、アドバイスしてくれたんだ。そしたらなんとなくコツが分かって」 「新田先輩、ですか?」  愛佳の声色が少し変わった気がして、私は視線を愛佳に向ける。愛佳はどこか複雑そうな光を宿した目でコーヒーのタンブラーを見ていた。 「うん。新田君だけど……。 愛佳?」 「あのっ!」  突然愛佳が私の腕を掴んで、声を上げた。 「う、うん? どうしたの?」 「弥生先輩は好きな人、いますか?」 「え?」  私は驚いてむせて咳き込んだ。  好きな人。  新田君のあの笑顔が一瞬よぎったけど、まだ好きまでは行ってないかな。でも、これから好きになる可能性はあるかも?  とっさに答えられずに考えを巡らしていると。 「私、新田先輩が好きなんです」  愛佳が顔を真っ赤にして言った。  ああ。そういうことか。  そっか。  私、答えなくて良かった。 「……そうなんだね」 「や、弥生先輩は新田先輩と仲が良いのですか? 弥生先輩も新田先輩のこと好きなんですか?」  愛佳の思い詰めた目が私を見つめてくる。私は。 「新田君にはたまたま教えてもらっただけで、仲が良いわけじゃないよ。それに、私、今好きな人いないんだよね」  自分の口が勝手にそう言うのを聞いた。 「良かったあ! 私、弥生先輩のこと大好きだし、尊敬してるから、弥生先輩が新田先輩好きだったら絶対勝てないなって思っちゃいました。すみません、勝手に変なこと考えて」    安堵したからなのか、少し目を潤ませて愛佳が言った。私は一度目を閉じて、 「私は新田君のことそんな風に見てないし、もしそうでも愛佳の方が可愛いから大丈夫だよ。もう。愛佳は考えすぎ」  と笑ってみせた。うまく笑えているだろうか。 「すみません! だって新田先輩かっこいいから、誰が好きになってもおかしくない気がして……」  正直、新田君が万人受けするようには思えないけれど、愛佳の目にはそう映っているのか。 「……本当に新田君が好きなんだね」 「はい!」  幸せそうに笑う愛佳を見て、私は愛佳を可愛いと改めて思った。そして、私のとった対応は間違ってなかったと。 「愛佳ならきっとうまくいくよ。応援するから頑張って!」  私はそう言って愛佳の背中を軽く叩いた。
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