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「なぁ、リヒトさんにテオとならいいコンビになれるって言われたんだけど、俺、死神の仕事、魂の回収なんてわからないしどうしようかと思って」
「お前が決めろ。すぐに答えは出さなくていいんだろ?」
「いつまでとは言われてない」
「お前は人間だ。たまたま、そういう能力があったってだけで、必ずしも俺たちの手伝いをしなければいけないなんてことはねーんだから」
「ありがとな。話してちょっとすっきりした」
ちょっと感情に浸っていていい所だったのに……
チャンチャカチャンチャンピーッ
「もしもし」
「どこに居るんですかぁ? ご飯の時間ですよぉー」
「アギル! お前は母ちゃんか! しかもなんだあの変な着メロは!」
「酷いですねぇ。最近はやりの時代劇のテーマソングですよ? それより、早く帰ってきてくださいね」
ツーッツーッツーッ
「切りやがった。テオ、お前も言いたいことは言わないとダメだぞ?」
「悠一が言いすぎなんだろ? 俺はもう慣れた」
「慣れるなよ!」
文句を言いながら家に戻ると、下の店の方まで蟹のいい香りがしてくる。
「うお! すげー」
「でしょう? 新鮮ですからねぇ。こちらがタラバガニと花咲蟹のお刺身です。こっちのお皿の方は蟹しゃぶで。この七輪の上に乗っているのが焼き蟹。それと、花咲蟹の鉄砲汁ですぅ。残ったのは茹でましたのでお好みで。では召し上がれぇぇぇぇ」
いただきますと最初に食べたのは勿論刺身。新鮮な活カニでないとお刺身は食べられないと聞いた事があるので、ワサビ醤油にほんの少しつけて一口。
「うまっ、あまっ!」
「身がプリプリしてる」
「ですよねぇ。はぁー、やはり新鮮なものが一番ですぅ。焼きガニもそろそろ。あまり焼くと固くなっちゃいますから。熱いので気を付けてくださいね」
そうは言われても、山盛りに積んである蟹を前に食欲は止まらない!
「この鉄砲汁も出汁が効いていてとっても美味しいですねぇ。でも、この蟹しゃぶがなんとも……ふぅぉぉぉぉぉ! で・り・しゃーーーーーすっ」
その内白目を剝いて倒れるんじゃないだろうかと言うほどの喜びよう。
だが、上手いものはうまい!
そして最後は蟹雑炊。
全部食べずに茹で蟹は冷凍しておくというので、出ている蟹をお腹いっぱいになるまで食べて大満足。
「蟹って美味しいけど、剥くのがひと手間なんだよなぁ」
「それも含めてのグルメですよぉ。明日は何にしましょうかねぇ」
「ちょっと待った! まだ蟹あるんだろ? 明日ぐらいは休憩に……」
「何を言っているんですかぁ。毎日の夕食の楽しみを奪うのはノンノーン! 勿論、蟹も料理しますが、他にも気になっている食材があるんですよねぇ」
「さ、テオ。片付けようぜ」
まだ話している途中なのにぃぃぃと言ってはいるが、明日は何をさせられるのか聞かない方が絶対に良い!
片づけを済ませた後は、テオが見回りがてら送ってくれると言い、家の前で分かれる。
「じゃぁ、また明日」
「ああ」
真っ黒な服装なので見送りたいのだが、すぐに暗闇に消えてしまい家の中に入る。
「……何だこれ」
泥棒にでも入られたかのような自分の部屋。
リビングやダイニングなど、他の部屋は何も荒らされていないのに自分の部屋だけ。
警察? いや、これはアギルに連絡……ってスマホの番号知らなかった!
目の前に消えかかっている死神界への扉。
リヒトが居ますようにと中に飛び込む。
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