564人が本棚に入れています
本棚に追加
店まで歩いて行くと、珍しくお客が来たのか、紙袋を持って店から出てきた。
「珍しい」
「そうですねぇ。いつもは真夜中に来るんですよあの方」
「ってことは、妖?」
「はいー。ですが、比較的大人しい妖ですのでご心配なく。テオ君、戻りました」
店に入ってすぐにテオにアギルが持っていたものを見せて、隠しておいて欲しいという。
「隠すより、リヒトさんに渡した方がいいんじゃね?」
「そうかもしれないけど、また本引っ張り出してるからすぐに向こうに行けないだろ?」
「鞄に入れておく」
アギルが見せてきた本には魚・果物・野菜とあり、魚と果物を捕ってきてくれと言うもの。
「僕はお野菜を採りに行ってきますねぇ」本に書いてある場所でと言われ、テオが連れて行けるというので魚から捕ろうという事になり、着いた場所は山の中の川。
「和歌山県の熊野川……だそうだ。で、お前は短剣、俺はこのリングで釣る」
「あー、海で釣りした時の川バージョンかぁ」
テオの鞄から、長靴や釣り具的なものが出てくるのでアギルに無理矢理持たされでもしたのだろう。
二人で川の中に入り、川の中を見るが魚がいる気配はない。
「やっぱり一匹ずつ釣らないといけないのかな?」
「釣りなんてやった事が無いからわからんが……俺の糸じゃ何ともならんと思うぞ?」
「えー! あ、そうだ。テオの糸はどんな形にもなるんだろ?」
「ある程度は」
テオに網の説明をすると、小さいながらも作ってくれたので、それで魚が逃げないように川の端から端まで張って欲しいと言って、川上の方から伸ばした剣で川面を叩く。
「それ、本で見た釣りとは違うような……」
「捕れればいいんだって」
前にテレビで見た方法だが、魚が逃げて網の方に行ってくれたら、タモで捕まえてクーラーボックスに入れればいいだけ。
テオは作った事のないものだから動けないと言っているので、バシバシと叩いて魚がテオの方に行ったら教えてくれとだけ言い、往復して何度か続けると、「魚が来た。図鑑のと同じやつだと思う」と声が聞こえたので、さっそくタモを持って魚を捕りに行く。
「おお、思ったよりいるけど、ちょっと小さいかな?」
「どのぐらいいるんだ?」
「六匹いたらいいんじゃない? いつも必要なだけっていってるし」
氷の入ったクーラーボックスに魚を入れ、次に向かう先は長崎県。
びわは知っているが、正直ネットやスーパーで買えばいいのにと思う事も少なくない。しかも姿を隠していくなんてまるで……
最初のコメントを投稿しよう!