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「それじゃあ、またね」
君と付き合ってから何度も交わした言葉。
柔らかい微笑みを浮かべて全てを包み込むような甘い声で君が言うから、私は「またね」と返していた。 たった一言交わすだけでこんなにも幸せになれるから、私は毎日が楽しかった。
──それなのに。
突如として変わってしまった時代。 文字だけで交わされる会話。 ずっと続くと思っていた日々は徐々に色を無くして擦り減って、気が付けば幸せの形は崩れていった。
そして私たちは別れた。
彼に「話がある」と呼び出され、別れ話を切り出されて──だけど私に彼の気持ちを止められる術は無かった。 別れたくないと縋る自分を客観的に無様だと思ってしまった。
だから私は、蓋をした感情を見せたくなくて精一杯に「ごめんね、ありがとう」と伝えたのだ。
すると彼は戸惑いと憂いを湛えた瞳で私を見つめ、最後はこちらに顔を背けて呟いた。
「それじゃあ、ね」
もう、“また”なんて無い。
私は遠ざかって行く彼の背中を、頬を伝う温かい雫を拭うこともせずに見続けていた。
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