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「・・・ちなみにさ・・・誰?」
これ以上踏み込んではいけない。そう分かっているつもりだった。
でも、自分の感情とは裏腹に言葉が先に出てしまった。
里帆は、スウッと一呼吸置くと
「田村くん」
と 照れ隠すように言った。
「・・・そうなんだ・・・」
「田村くんには言わないで・・・」
「あぁ・・・でも なんであんな奴がいいの・・・?」
俺の返事を聞くと、里帆は「えぇぇー・・・///」と、頬をさらに真っ赤に染めた。
「・・・だって・・・素敵な人だから」
「どんな所が?」
「どんな所って・・・うーん・・・そうだなぁ・・・ やっぱカッコいいし、男女別け隔てなく接してくれる。この間も、階段から転びそうになったら、腕つかんで助けてくれたの。すっごく優しい人だなぁって・・・嬉しくなっちゃって・・・」
夢心地な表情と、何処かへ飛んでいってしまいそうなふわふわとした声で、彼女は足軽に歩きながら独白した。
全て分かった。
彼女には 人志しか見えていないことに。
息が荒くなる。
どう足掻いたって 人の感情を動かすことなんて無理に等しかった。
だが、俺は彼女への気持ちを隠しきれなかった。
「・・・やめとけよ あいつは」
「・・・どうして?」
里帆は少女のような視線を俺に向ける。
「その・・・一ノ瀬さんが思っているほど 良い奴じゃないっていうか・・・ほら あいつ心移りも激しいし」
「どうして遠野くんがそんなこと言うの?」
里帆は表情を1つ変えず、でもいつもより芯の通った声で遮った。
「遠野くんだって、いつも田村くんに助けてもらってるじゃん。それに、遠野君も人のこと言えないよ。いつも見られて 私 正直気持ち悪いし。田村くんみたいにカッコよくて 優しい人と一緒になりたいの。好きになるのも、決めるのは私だから。」
鉄槌を打たれ、そこから何かが流れ出るような感覚だった。
「・・・・・・ごめん・・・」
情けない声が空中に吸い込まれていくのを確認したように、里帆はフェンスから夕焼けを眺めた。
彼女への気持ちは 結局隠したまま 全てが終わったような気がした。
本当に?
このままでいいのか?
「・・・・・・一ノ瀬さん」
俺は見下ろした。
誰もいない校舎裏に 一ノ瀬里帆はいた。
美しい白い肌に みずみずしい赤色と 夕焼けが映える。
彼女を一瞥し 俺は階段を降りていった。
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