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一ノ瀬里帆は 美しかった。
他の誰よりも美しく、男は皆彼女を一目置いた。
だから怖かった。
人志を彼女に取られてしまうことが。
彼女が人志に好意を寄せていることは、何ヶ月も前から知っていた。意図的が非意図的か、学生間の噂はすぐに広まるもので、それは虚ろな妄想からはっきり形づいた確証へと変化した。
俺は感情の赴くまま さらなる情報を求めて彼女を追いかけるようになった。
そして 部活終わりの夜に見てしまったのだ。
彼女が学生らしからぬ出で立ちで 年上の男とホテルへ入っていったところを。
渡したくない。
あんな奴に 人志は渡さない。
人志は「良い人」なんて言葉じゃ語ってほしくない。小学生の時、人格的に問題のある教師に目を付けられひどい仕打ちを受けた時、他の大人に助けを求めてくれたのはあいつだ。中学生の時、イジメに遭っていた俺をこっそり助けたのもあいつだ。女子に陰キャと罵られ、ありもしないわいせつ事件をでっち上げられた時もあいつだけが味方になってくれた。俺と一緒にいるだけでガラの悪い奴らにボコボコにされても あいつは仕返し1つしなかった。
俺から離れるよう説得しようとしても あいつは笑って言った。
「言いたい馬鹿には言わせときゃいーんだよっ。」
「カッコいい」「優しい」
薄っぺらい言葉で上辺の愛を並べ 姿形は美しく 無垢に顔を赤くする
そんな姿が俺にとってはこの世の何よりも憎らしく思えた。
こんな奴に 人志は渡さない。
俺は理性を完全に失った手で 一ノ瀬里帆を突き落とした。
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