かわいいのじゅもん

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かわいいのじゅもん

 今日は成人式の前撮り撮影の日だった。今年の春頃に選んだクリーム色にピ ンクや赤のたくさんのお花が描かれている振袖を着ての撮影、ヘアセットは小 さい頃から親子でお世話になっている美容師さんにお願いした。  この美容師さん、私が普段髪を切ってもらったり、染めてもらったりする時 もそうなのだが、とても私を褒めてくれる。今日はほんと、息をするかのよう に私のことを褒めちぎってくれた。  「かわいい、ほんとにかわいいよ!」  それに合わせて、母も何度も褒めてくれた。最近の私の心はみごとに荒れ狂 っていたのに、2人の”かわいい”の”呪文”により私の自己肯定感はぐんぐん上 がっていった。嬉しくて泣きそうになってしまったが頑張って我慢した。  ヘアセットした私は、今までの人生、といってもまだ20年にも満たない が、その中でも一番かわいいと思えた。  撮影は仲のいい友人と一緒だった。彼女は雰囲気もほわほわしているし、な んとなく目がくりくりしててウサギに似ている。(彼女もウサギが好きだか ら?)私服で遊ぶ時も、自分と比べて自分の方が劣っていると思いがちなのだ から、振袖なんてもの着ていたらもっとそう思ってしまうのではないか、と予 想していた。しかし、呪文のおかげなのだろうか、私は自信をもって撮影を終 えることができたし、いつもはあまり好きではない写真も、今日はたくさん撮 ってほしいとさえ思えた。  誰かから贈られるお世辞じゃない本当の褒め言葉は、人に勇気と自信を与え る。今こうやって文章を書いている時でさえ、今日のことを思い出していると 泣きそうになってしまう。(まあ周りに人がいるため意地でも泣かないが)  この涙は、心が真っ黒な時に流すものより何倍もきれいなのだろう。
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