一筋の明るい光

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完全な敗北。人生の絶望。 「ここから再出発するのは、難しそうだな」 途方に暮れて、ため息を吐いた。 1ヶ月前、俺の家は燃え、親父は蒸発し、母親は他の男と行方不明になった。一千万円の借金を残して。 「はあ、どうしてこんなことに…」 1ヶ月前まで、俺の家は超金持ちで、豪華な家があって、エリートの父親、美人な母親。 絵に描いたような、幸せな家庭だった。 それが、一晩で破滅した。 「俺は、とても運が悪いな」 26歳にして、こんな不運なことに巻き込まれるなんて。この先、生きてて良いことなんてあるのか?一度は、首を吊って死ぬことも考えた。だが、怖くてどうしても死ぬことができなかった。 「もう一度、地道に人生をやり直していくしかないね」 肩を叩いて、叔父が俺にそう告げた。 火事が起きたと聞いて、駆けつけてくれた叔父。でも、叔父も自分の家族があるから、と 俺の面倒をみてはくれない。 「幸い、きみには仕事があるんだし、続けていったら」 「うん…」 派遣の仕事だけどね。心の中で呟いて、 また大きくため息を吐いた。実家暮らしだったら何とかなったものの、全くのひとりとなると、生活は難しいかもしれない。 「最悪、餓死するかもな…」 その時は、草でも食べて生きてゆくしかない。 ひどく不安を感じている俺に対し、 叔父は静かにこう告げた。 「派遣のバイトじゃなくて、もっと安定した仕事に就いたら?例えば、公務員とか…」 「公務員か…」 正直、気が乗らなかった。公務員を目指すとなると、かなり努力しないといけない。 「安定した収入があれば、安心して暮らせるだろう?」 「そうだな…」 その時、頭に浮かんだのが、《消防士》という仕事。なぜか、消防士になりたいと思った。 「火を消して、悲しみをこの世から消し去りたい」 「なるほど、それは良い考えだね」 人生のドン底からの出発。新たな挑戦。 絶望の淵に立たされても、ずっと人生は続いてゆく。再び、栄光を手にする日は来るだろうか。自信はないが、「消防士になる」と口にした時、一筋の明るい光が見えたような気がした。
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