グリーンアイシャドウとタピオカミルクティー

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グリーンアイシャドウとタピオカミルクティー

 委員長。  それが私のあだ名。  大学には委員会なんてない。それでもあだ名は委員長。  委員長っぽい、つまりは真面目な優等生というイメージからつけられたあだ名。  真面目といえば聞こえはいいが、要するにお堅くてつまらない人間なのだと思う。  昔から勉強はできる方だったけど、運動会や体育祭なんかは苦手だった。周りのノリについていきたいのに、一線を引いてしまう自分がいる。ああいうことを全力で遊べる人たちは素敵だ。  ――お腹すいた。 「ねむ、絶対次の授業寝るわー」 「それな」 「というか今日の授業なんだっけ?」 「近代文学の映像化がどうとかいって、映画みせられるんじゃなかったっけ? 寝るよね」  そんなたわいない話をして食堂から出ていく学生たちの横を通って、食堂内へ。  昼休みの食堂は人が多くてうんざりするけど、三限の時間がくると途端に人がいなくなる。だからみんながお昼を食べ終わって授業に出かける頃、食堂にくるのが私の日常。ちょうどよく三限は空きコマが多いから助かっている。  奥まった場所にあるテーブルに座って、コンビニの袋から出した菓子パンをかじる。今日は牛乳パン。大きめのちょっとパサパサしたパンには、白くて甘いミルククリームが挟まっている。もともとご当地パンらしいが最近はどこのコンビニでも見かけるような気がする。生クリームは甘すぎて苦手だけど、このクリームは程よい甘さで好き。素朴な甘さというやつだろうか。  どんどん食べ進めて、ちょっと塩辛いものも食べたくなってきたなと思いながら最後の一かけらを口に放り込む。  ふと足がなにかを蹴った。  ミルククリームの甘さを嚙みしめながら、テーブルの下をのぞきこむ。小さくて四角いシルエット。  拾い上げると単色のアイシャドウだった。黒色の四角いケースは真ん中だけ透明なプラスチックで、くすんだグリーンのアイシャドウがのぞいている。 「あれ、いいんちょだー」 「あ、小柳さん」  顔をあげると同じ学科の小柳さんがいた。ショートカットの明るい髪色がよく似合う小柳さん。  ――珍しい、今日は一人だ。  小柳さんの周りにはいつも人がいる。楽しい人なのだ。明るくて話し上手で、同じ学科というだけであまり接点のない私にも、すれ違ったら声をかけてくれる。それにとてもお洒落だ。  今日は白シャツにジーパン、黒地に花柄がプリントされたロングカーディガンを羽織っている。丸眼鏡からくりくりした瞳が私をのぞきこむ。リゾートファッションというやつだろうか。かわいい。  小柳さんは大きなバックを重そうに抱えてテーブルに置くと私の手元を見て、「あ」と声を上げた。
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