3人が本棚に入れています
本棚に追加
*
その日の昼休みに、マユはクラスメイトの男子をどこかへと連れ出した。
まさか告白? でも、あれはちょっと丸顔でちょっと性格が悪いヤマグチだ。あんな奴お嬢様にはふさわしくない。
心配になったあたしはコソコソと2人を尾行した。別に特別仲がいい訳ではないが、あたしと彼女は小学校からの古い付き合いだし、何だかんだで気になってしまうのだ。
2人は人気のない廊下で立ち止まった。近くのコーナーに隠れて見守るあたし、プラスもう1人。この男も同じ2年2組で通称お嬢様のお付きの人。お主いたのか。
「ヤマグチ」
来た。
「100万円あげようか?」
……はい来たー。
あたしの隣でお付きの彼は大きくうなずいたが、言われた本人はすごい顔をした。まるでにらめっこの練習中みたいな。
「はあ? 何言ってんの?」
「欲しいものがあるって言ってたから、ちょうどいいと思って」
「金持ち自慢かよお前。いらねーよ」
短気な声が静かな廊下によく響いた。
かわいそうなヤマグチ、とあたしは人生で初めて彼を憐れんだ。お嬢様にこんなところに連れて来られて多少期待しただろうに。
マユが何を考えているのかはちっとも分からなかったけど、あたしの0.6の視力では残念そうに見えた。
最初のコメントを投稿しよう!